変わりゆく干潟の海/長崎県・諫早湾
NHK総合 1999年8月19日22:20-22:50 視聴メモ

干満の差が6メートルもある諫早湾は「海のゆりかご」と呼ばれ、多くの生物をはぐくんできた。
1997年4月14日、湾の3分の1の締め切りから2年4ヶ月たった。
干潟も日一日と干上がっている。
今年3月、潮受け堤防が完成した。
国はこの干拓事業に2370億円をかけた。
来年には、1840haの耕地が生まれる。畑作や酪農に使われることになっている。
この潮受け堤防の目的は、灌漑による農地と、防災である。

漁師、土井広光さん。
「ムツ掛け漁」で1000匹以上とれた。昔は宝の山だった。
しかし、今は来たくない。

ムツゴロウは今、土の中のわずかな塩分で生きている。しかし、これもどうなるかわからない。

1994年10月。諫早湾は200種類以上の鳥が生息する土地だった。特にシギ・チドリは多いときには1万羽も生息し日本一だった。
鳥たちは今どうしているか。
日本野鳥の会長崎支部の鴨川誠さん。
 シギ・チドリはほとんどいない。いても、元気がないからか2mくらい近づいても逃げない。今、ここには干潟の頃には見られなかった陸の鳥が住み始めている。

底生生物の調査をした。1メートル四方に昔はゴカイ類が500匹もいたのに、今では、チガイが5個だけ。
鳥のエサがなくなった。カニ類など20種類くらいしかいない。


堤防の外でも異変が起きている。

小長井町の漁協は堤防締め切りに最後まで反対していた。
しかし、漁業に影響がないからということで押し切られた。
今、魚・貝はめっきり姿を消した。
大型二枚貝のタイラギは冬は50艘もの船が出てこの漁協の大きな収穫だった。
しかし、干拓工事が始まってからタイラギの大量死があり、
平成5年から休漁している。

漁師の松永秀則さんは収入が3分の1になったと。
今は定置網によってコハダやコノシロを獲っている。
締め切り後、ほとんど潮が流れなくなったという。
そして、網の汚れもひどくなったという。
干拓工事の影響ではないかという。

アサリ養殖は小長井漁協の最後の命綱。
しかし、不況続き。今年は身が大きくなく育ちが悪いので、売れ行きが悪い。そしてふだんの3分の1の収量。

去年、7回の赤潮があり、天然魚・アサリが大量死した。
長崎大学教育学部(生物学)東幹夫教授の調査。
干潟の浄化能力が失われたための富栄養化による赤潮であろうと。
CODも締め切り後上昇を続け、基準の5ppmを上回ったまま。

事業所の方でも去年10月と今年6月に、排水の調査をしたが、
現在も結果は出されていない。まだ調査中とのこと。
赤潮が事業と関係があるかわからない、という。

今年7月23日、諫早地方を総雨量367mmの豪雨が襲った。
市内を流れる本明川が増水し、住民に避難勧告が出された。
結果は、
床上浸水240戸、床下浸水471戸
435haの水田が浸水という被害が出た。

潮受け堤防の目的のひとつに洪水被害を防止するということであったが、今回の洪水被害について堤防との関係を次のように述べている。

潮受け堤防がなければもっと水はけが悪かった可能性がある、防災の効果はあった、と説明している。

この洪水によってたまった水を2日後の、7月25日から諫早湾に放水しているが、
この日、漁師の松永さんは「この水がくるとき魚は全く捕れない。これで天気が良ければ赤潮になる。このままでは昔の海には絶対戻らない感じ‥」と述べている。

この堤防ができてから、トビエイが養殖アサリを食い荒らすようになった。
小長井漁協の平田実さんは「死に海になってしまった」と話す。

                        以上
Home